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Selfishly

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駄目な男  Act7「恋の障害物-2」


駄目な男   


          Act 7「恋の障害物-2」



リンゴ~ン!!

と門の鐘がなった。
エドワードに続いて、ロイも素早く立ち上がり、自分の装備を手早く見直す。
・・・と言っても、闘いに赴くわけもあるまいし、要するに、自分の身なりを
整えるというわけだ。

エドワードから事情を聞かされたロイにとっては、
今回のアルフォンス逗留期間で、何とか好感度をアップしておきたい。
エドワードの唯一の肉親だと言う事も勿論、
エドワードが、アルフォンスにベタ甘なのも知っているから、尚更だ。
下手に邪魔者に回られると、今後痛手を被るのは、
絶対に、自分だろう。
それでなくとも、今回も1週間も我慢を強いられている状況だ。
これ以上の、妨害は何としても、防ぎたいところだった。

まずは、気持ちの良い挨拶からと、
エドワードに続いて、気を引き締めながら玄関で待つ。

ガチャンと開かれた扉の音に、目線をやると、
エドワードよりも、二周り近く背が高い男性が姿を見せる。

「アルフォンス! 久しぶりだ。よく来たな」

何やかやと心配事はあるが、大切な弟だ、会えて嬉しくないわけがない。

「やぁ、アルフォ・・・」

続いて声をかけようとした矢先に、

「兄さん!!」

ヒシッと、目の前で抱き合うシーンが展開される。

「兄さん! 僕、寂しかったよぉ~。
 もうどれだけ会いたかったか」

腕の中にすっぽりと納まっているエドワードの頭に頬擦りしながら、
甘えている男が、身内でなければ・・・いや、身内であっても、
かなり、ロイには不快感をもよおさせる後景だ。

『が、我慢だ、我慢』
呪いの様に、心で念じながら、張り付いた笑顔を絶やさず
そのシーンが終わるのを、辛抱強く待つ。

「ああ~、久しぶりの兄さんの匂いだ~。
 ねぇ、ちょっと痩せたんじゃない」

等など言いながら、兄弟と言えど、遠慮が無さ過ぎる態度と、
エドワードの身体を無遠慮に撫で回している手に、
殺意が芽生えるが、相手は身内だ、アルフォンスなんだと、
自分に納得させるように、考える。

そして待つこと5分・・・。

この兄弟は、危ないんじゃないだろうかと、ロイの危惧が浮かんでくる頃にやっと、

「ほら、アル。 いつまでも甘えてんな!
 家に入ってからでも、いいだろ?

 ロイも挨拶できなくて、困ってるしさ」

さらりと、問題発言しながらも、一応は、この場での
感動の対面は、終わらせてもらえるらしい。


「やっ・・・やぁ、アルフォンス君。
 久しぶりだね。 自分の家だと思って、寛いで過ごしてくれ」

波立つ感情を抑える苦労のせいか、やや出だしの声は掠れたが、
とにかく、それだけは伝えきる。

「あっ、マスタング国家議長、いらっしゃってたんですか?
 すみません、全然気づかなかったもんで。
 しばらくお世話になります」

にこやかな笑みで語られると、辛らつな言葉も、それなりに聞こえるものだ。

エドワードは、二人の挨拶が無事に交わされているのを見ると、
さっさとキッチンの方に歩いていく。
お茶の準備があるのだろう。
となると、リビングまで案内するのは、当然、ロイの役目になるわけで。

「な、長旅で疲れただろう? まずは、お茶でも」

「あ、ありがとうございます。
 でも、僕は議長よりは、まだだいぶん若いんで、全然、大丈夫です。

 けど、身内の再会を水入らずにさせてやるような、気配りも出来なくて、
 議長とかの大役は、大変じゃないですか?」


「なっ・・・」

ロイが何か言い返す前に、アルフォンスはさっさと、
兄が消えた扉の方に歩いていく。

「兄さ~ん、僕も手伝うよ。
 兄さんだけ働かすなんて、とんでもない」

そんな言葉を吐きながら、姿を消していくアルフォンスの背に、
ロイは、大きなため息を吐き出す。

「前途多難だな・・・」



ショックから何とか立ち直って、二人が居るリビングへと辿り着くと、
そこには、やはりな展開が待っていて・・・。

仲良く並んで据わっている二人は、何もそこまでくっついている事は
ないんじゃないかと言う密着ぶりだ。
互いに顔を寄せ合っては、クスクスと楽しそうに語らっている。

「あっ、ロイ。 早く座れよ、お茶が冷めるぜ?」

久しぶりにアルフォンスが傍に居るせいか、上機嫌なエドワードが
満面の笑顔で声をかけてくる。

「あっ、ああ」

不承不承、エドワード達の前の席に腰を落ち着けると、
手持ち無沙汰を紛らわせる為に、淹れられたお茶に口をつける。

「議長、今回の回収税の振り分けなんですが、
 僕ら、リゼンブールの者は、承服しかねません」

いきなり真面目モードなアルフォンスの様子に、
目を白黒させるが、仲良い二人の様子を見せつけられるよりマシだ。

「それは一体どうして?」

いきなり討議が始まったのには、エドワードも驚いたが、
リゼンブールの住人の意見となると、気にならないわけが無い。
結局3人で、しばらく話し合った後に、

「取りあえず、議会が始まったら、詳しく聞いてから再考してみろよ。
 俺も、皆の言ってる事もわかるけど、国の情勢も考えて欲しいんだ。
 リゼンブールみたいに、復興が目覚しい街ばかりじゃない。
 市町村全部に、一律税をかけるのには無理があるんだ。
 税の分配率は、何度も練り直して算出したから、
 決して無茶な数字じゃないと俺は思ってる」

エドワードが、真剣な表情でそう話すと、アルフォンスも大きく頷いて、
明るい表情を見せる。

「うん、僕も、兄さんの配慮なんだから、ミスや誤算はないと思ってるよ。
 でも、僕じゃ未熟だから、まだまだ兄さんの時のように
 皆を納得させるまでいかないんだと思う。
 この議会が閉会したら、1度、リゼンブールの皆にも話してやって欲しいんだ。
 皆も、やっぱり兄さんの口から、直接聞きたいって希望してるし」

そんなロイにとって、歓迎すべきでない話が、さらりと流れていく。

「ああ、そうだな、それは勿論だと思う。
 お前でも十分だと思うけど、やっぱ俺もちゃんと伝えなくちゃな」

「わぁー、兄さんだったら、そう言ってくれると思ってたよ。
 じゃあ、折角だから、僕が戻るときに、一緒に戻らない?
 議会での話も、出来るだけ詰めたいしさ」

「ああ、そうだな・・・やっぱ、早いほうが良いよな」

チラリとロイの方を見ると、とんでもないとばかりに、
小さく首を振っている。

「まぁ、その件に関しては、もうちょっと時間くれよな。
 こっちで、閉会後残ってる仕事にもよるしさ」

議会の調整役も兼ねているエドワードには、終わったからと直ぐには動けない、
と言うか、終わってからの調整の方が、大変なのだ。

「そうなの? 全く、市議長やってるのだけでも大変なのに、
 ちょっと、働かされすぎじゃない?」

エドワードの返答に不満そうにし、元凶の男をねめつける様な視線を送る。

「アル、これは俺が言い出した仕事なんだ、別にロイが頼んだ事じゃない」

諭すように言うエドワードに、アルフォンスもシュンとした様子を示す。

「・・・ごめん・・・、僕、甘えすぎだよね」

アルフォンスが項垂れると、エドワードが慌てたように言葉をかける。

「そ、そんな事はないぞ。 お前には街の事、全部見てもらっててさ、
 俺のほうこそ、お前に甘えすぎてる位だ」

「兄さん・・・、いいんだよ、僕は。
 兄さんになら、どれだけ甘えてもらっても、嬉しいよ」

「アル・・・」

ヒシと見詰め合っている二人に、身の置き所がないように感じさせられているロイが、
わざとらしい咳を付く。

「ゴ、ゴホン」

そのロイの咳で、はと今の状況を思い出したエドワードが、
照れたように、頭を掻いて、ロイに笑いかける。

「ごめんな、ビックリしただろ?
 俺、ついついアルには、甘えちゃう癖があってさ、
 いい歳して、恥ずかしいよな?」

何を勘違いしているのか、そんな事を言って恥ずかしそうにしている 
エドワードの様子が、滅多に見ない可愛いさで、心の理性が、
グラリと傾きそうになる。

「そんな事ないよ! 兄さんは、いつでもしっかり者だから、
 僕くらいには、遠慮せず甘えてよ」

勢い込んで話すアルフォンスの、『僕くらい』が、やたらと強調されて
言われたような気がするのは、ロイの被害妄想だろうか・・・。

「と、兎に角、お前の部屋に案内するな。
 んで、先にシャワーを浴びて来いよ。 その間に、食事の準備を
 しておくからさ」

エドワードの言葉に、やっと二人っきりになれるチャンスが来たと、
ロイも表情が明るくなる。

「ええ~、いいよ、僕は後で。
 それより久しぶりに兄さんと一緒に、料理がしたいな。
 で、食事が終わってから、昔みたいに一緒に入ろうよ」

そんなアルフォンスの言葉に、ロイが目をむくくらい驚く。

「えっ、お客様に、そんな事させれないよ。
 いいぜ、先に入ってゆっくりしておけよ」

その言葉に、ロイもブンブンと音がするほど、
首を縦に振る。

「ううん、一緒に作ろうよ。 街の事で、話したい事も
 一杯あるしさ。 それで、久しぶりに僕の髪も洗ってくれない?
 僕も、兄さんの髪を洗ってあげるから」

「お前の髪を洗うのはいいけど、別に俺のはいいぜ?」

「駄目だよ、兄さん、いつもそう言って、雑な洗い方ばかり
 してるんだから。 折角綺麗な髪なんだから、勿体無いよ」

「別に、気にしないけどな~」

とか楽しそうに話しながら、二人で部屋を出て行く。
茫然とそれを見送りながら、耳には二人の楽しそうな会話が
飛び込んでくる。

「・・・・・・」

すくりと立ち上がると、足早に自室に入っていく。
そこは、本来二人の部屋だったのだが、双方に行き来する扉も消され、
しばらくは、ロイ一人きりの部屋になってしまった。

「クッソ!!」

ベットに置いてる枕に八つ当たりしながら、
出来る限りの悪態を、小さめの声でぶつけていく。

「なんだ、あの馴れ馴れしい態度は!
 20をとうに過ぎた男が、『僕』だと~。
 大体、エドワードも甘やかしすぎだ!
 私だって、滅多に一緒に風呂なんて、入ってくれない癖に~!!」

髪を洗ってもらうだなんて、何て羨ましいー!!と、本音はそこだった。

自分に対する態度よりも、エドワードに甘える態度の方が許しがたい。
以前、リゼンブールであった時は、アルフォンスの方がロイを避けていたからか、
あまり長い時間一緒にいた事は無い。
まさか、あんな目に余るほどの、いちゃつきぶりだったとは。
例え兄弟でも、過剰なスキンシップだ。
何か、規制するような法律はなかっただろうか・・・、などと
くだらない事を真剣に考え込んでしまう。


コンコン。

控えめなノックが、廊下の方から聞こえてくる。
聞こえる方向が、少しだけ寂しく感じながらも、
きっとエドワードに違いないと、慌てて扉を開けに走る。

ガチャリと扉を開けると、予想どうりの人物が立っていて、
ロイは、性急に引っ張り込むと、言葉を交わす間も与えずに、
深い口付けを貪る。

「ンッ・・・ ロォ・・・イ」

鼻にかかった甘い声が、ロイの欲情をいや増しに増していく。

しばらく、静かな部屋には水音だけが響き、二人の感情を盛り立ててくれる。
体重を預けてくるエドワードの体温が上がっているのを感じると、
ロイはさりげなく、場所を移動し、ベットの傍までやってくる。

『これは、いける!』

ロイの期待が、大きく膨らんだ時に・・・、

「兄さ~ん? 何から、始めるのぉー」

とエドワードを呼ぶアルフォンスの声が、やたらと良く響いてきた。

「あっ・・・」

声を耳にした途端、意識を立て直したエドワードは、
ロイに済まなそうな表情を向けて、少しだけ背伸びをする。

「ごめんな、これで勘弁な」

と、軽く触れるだけの口付けを落として、ロイの腕から去っていく。

「エドワ~ド~」

情けなさそうな、恨めしそうな声が吐かれたのは、
エドワードが、部屋を出てから暫くしてからだった。
そしてその後、浴室1番乗りをしなくてはならなくなった彼は、
侘しい思いで、こそこそと浴室に飛び込んでいった。

熱いジャワーを浴びながら、疲れ切った吐息を吐き出す。

「こんな日が、後1週間も続くなんて・・・地獄だ」


まだまだ、アルフォンスの滞在は始まったばかり。
ロイの受難も、幕を切ったばかり。





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